手探りしても手応えがない
こんな経験はないだろうか。
リュックの中にお財布が入っている。
わたしはそれを知っているから、手探りで見つけようとする。
リュックの口を少しだけ開けて右手を突っ込む。右へ左へ手を動かし、中にある財布を探す。革製の財布は手に当たればすぐにわかる。けれどもなかなか手に当たらない。
リュックの中には他にもマフラーとか、暑くなって脱いだ上着が入っている。
わたしは荷物が少ないほうだ。お財布を一つ持って行くだけでも、小さいカバンを探すのが面倒だからといって、財布を持ち運ぶのには大きすぎることなど考えずに、手近にあるリュックを選ぶ。財布が入れば何でも良いのだ。
だからリュックの中の財布を探すなんてたやすいこと。目で見なくてもすぐに見つかるさと、たかをくくって腕を突っ込んだ。
しかし、5秒、10秒とリュックの中をかき回しても財布は見つからない。
まさか入っていないなんてことはないだろう。不安になりながらも、確かに入れたのだと言い聞かせてより一層腕をぐんぐん押し込む。
けれどやはり手に当たるのは母に誕生日プレゼントでもらったマフラーの柔らかいカシミアの感触。
あきらめてリュックをおろし、中身を取り出す。もしや本当に入っていなかったらどうしよう。そう思いながらさきほど無理やり押し込めたばかりの上着を取り出すと、リュックのそこには確かにわたしの財布は入っていた。
なんてことはない、ただ手探りで見つけられなかっただけ。
まさかリュックの中の時空が歪んで、たった15秒間だけわたしの財布がこの世界から失われていたというわけはない。
単純なことなのだ。あんなに念入りにリュックのそこも探したのに、そのときにはなかった。まったく、一切触れなかったのだ。
けれども目で見てみると、財布はそこにある。
納得がいかないよ。
手探りで見つからないときは、鞄の中のものをすべて取り出して、目で見て確かめればいい。そうすれば、本当に入っていないのか、探し方が悪かったのが一目瞭然だ。
では、形のないものを扱うときはどうすればいい。
例えば頭の中にある構想を探っているときは。
迷うことがある。あれでいいのかこれでいいのか
けれども、なに、迷うことなんてないさ。
迷ったなら迷ったなりに、そのままの言葉で文字にして見える化すればよい。
何がわからなくて困っているのか。
想像上のものであれば、思ったとおり書いてみるといい。
さて、君は今何に困っているんだ。